遥くんとモブ女子の話

放課後。
彼は教室でノートを広げると、課題を終わらせた。帰るのかと思ったが、彼は調理室へ向かった。
恐る恐る覗いてみると、学級委員の佐倉宮が、なにかを作っているようだった。彼はその隣に腰掛けて、話しかけている。
意外な組み合わせだと思った。だけど注視してみると、思いの外二人はよく一緒に行動していた。学級委員長の佐竹と南が幼なじみなのであれば、自然と学級委員の佐倉宮ともそれなりの接点は出来るのかもしれない。実際、佐竹と佐倉宮は学級委員の打ち合わせで一緒にいることが多かった。
少しだけ、羨ましいと思った。
佐倉宮は地味目だが、学級委員になるくらいには品位があった。成績もまずまずで、親がフランス料理の店をやっていたらしい。家庭科の調理実習は決まって佐倉宮の腕の良さが際立った。誰に対しても嫌な顔はせず、誰からも嫌われることはないのだろう。
自分はとても冴えなかった。なんだかとても自分を変えたいと思った。
休み時間、一人でノートを広げていた南に、思い切って話しかけた。
「南、さん」
「おう、なんだ」
こちらを見上げてくる彼に、思わず腰が引けそうになったが。それでも言おうと思った。
「その、…ピアス」
その単語を出した瞬間に、南の顔は曇ったが。きっと、注意されると思ったのだろう。
だが、自分が言いたいのはそうではない。
「かっこいい、ですね」
自分でも声が震えているのがよくわかった。なんだかとても泣きそうになった。
彼は驚いた顔をすると、しばらく俯いた。そして見上げるとこう言った。
「別に、お洒落でしてるわけじゃねえけど。校則違反だし。でも、ありがとうな」
照れくさそうにはにかむと、名前で呼ばれた。どうやら名前を覚えていてくれたらしい。
「そりゃ同じクラスだし」
なんだか胸に温かいものが広がって、嬉しくなって、それから笑った。
何かやってみたい。始めてみたい。一体自分は何が好きだったか。何を諦めてしまったか。そんなことを考えるようになった。
まず髪型を変えてみた。癖っ毛で嫌だった髪はバッサリ切った。猫背をどうにかしたくて、思い切って演劇を始めてみた。この高校には演劇部というものはなく、独学で始めた。人前に出れば治るかと思った。根拠は全くないが、好きなドラマのセリフを読んでいるだけで楽しかった。慣れてきたら、どこかに自分を売り込むのもいいと思った。
毎日が新鮮に思えるようになった。人に話しかけるのを、躊躇わなくなった。そんなある日。
南はピアスを外して登校してきた。下駄箱で会って、挨拶した。どうしようか迷って、思い切って聞いてみた。
「あの、ピアス…、いいの?」
お洒落でつけているのではないとしたら、何かの意味が込められていたのだろうと思った。
だから、それに対して、自分は南に「かっこいい」と言ったのだ。それを失ったのが、なんだかとても悲しかった。彼は自分の憧れだから。
「もう、いいんだ。持ち歩くことにした。だから、いい」
ちゃんとピアスの居場所はあるらしい。良かった。自分も胸を撫で下ろす。
「お前も、カッコよくなっちまったしなぁ」
突然言われて驚いた。確かに、以前声を掛けた時より髪は大分短くなったが。彼にそこまで興味を持ってもらえたことに驚いた。
「あ、ありがとう」
くすぐったい思いでいっぱいになる。じゃあ教室でな、と手を振られた。

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この後モデルとかするようになって、自分に十分に自信をつけてから告白しますが、「お前に俺は勿体ねえよ」って振られる。もっといい男見つけろって背中押される。多分モブ女子もそう言うだろうなって思いつつ告白したと思う。青春だね。お互いが作用しあう関係っていいですよね。
ありすに言われてピアスを外したけど、このモブ女子の影響もありそう。きっとすごく嬉しかったと思う。遥くんがピアスの持ち主に言いたいことだもんね。教室じゃなかったら泣いていたかもしれない。だから踏ん切りもついたのかなって。そういうキャラ同士の作用を見てると感動して泣いてしまうよ。そういうのね、ほんとね、めっちゃすき。